県民みんなと対話ログ:鳥取R29フォトキャラバン実行委員会(2021.10.12)との顔合わせ-アートのすそ野を広げるには?-
世界的に著名な写真家 植田正治は、出身地である鳥取県・山陰を生涯に渡り活動拠点としたように、鳥取県の風景に魅了された写真家は多いと聞きます。
今回は、写真という表現を通して地域の魅力を新発見・再発見する取組み『鳥取R29フォトキャラバン』を企画し、講師を務める写真家・水本俊也さんとの顔合わせの様子をレポートします。
“写真”というアート表現の可能性
鳥取県八頭町出身の水本さんも、鳥取の人や自然、文化に魅了された写真家のひとりです。海や船旅をテーマにした作品を発表する傍ら、写真の印刷紙としても活用することで因州和紙の可能性を広げる取り組みや、鳥取の山・海・川・森・里を舞台(背景)に家族写真を撮影し、作品として発表する「小鳥の家族」など、写真の「撮影・印刷・発信」というプロセスを通して、人とその背景にある自然・文化を伝える活動をされています。
対話会では、水本さんから以前から鳥取県立美術館の計画に高い関心を寄せていたことをお話されました。写真という表現は、アートの中でもすそ野の広い分野であること、地域の歴史や文化、自然などの価値を伝えることができるなど、多くの可能性がある点を挙げられ、鳥取県を拠点に全国・全世界で活躍する写真家が多く存在する状況を踏まえ、県立美術館では写真の扱いがより大きくなることを期待していると語られました。
鳥取R29フォトキャラバン
鳥取県立美術館では、単なる鑑賞の場としての美術館ではなく、県⺠が主役のアート活動拠点として、みんなでつくる『とっとりアートプレイス』を目指しています。対話会では、水本さんからこれまで取り組んできた『鳥取R29フォトキャラバン』の活動で大切にしてきたことや、県立美術館での写真を活かしたプログラムのアイデアなどについて、活発な議論と多くのご提案をいただきました。
国道29号線は若桜街道とも呼ばれ、鳥取県東部の鳥取市・八頭町・若桜町などを経由し、姫路市までを結ぶ国道です。古くから多くの人・もの・文化が行き交う重要な道で、沿線にはその歴史を感じさせる多くの文化遺産が点在し、『日本風景街道』にも選定されています。
「鳥取R29フォトキャラバン」は、そんな国道29号沿線をフィールドに参加者が撮影することの楽しさを感じ、地域の魅力に気づいたり再発見したりすることを目指した取り組みです。カメラメーカーの協力により参加者へプロ仕様の一眼レフを貸し出し、自由に撮影してもらい、パネルへ印刷・展示を行います。2015年に始まったこの取り組みは、因州和紙への写真印刷や「星取県の星空」撮影、若桜鉄道とのコラボなど、沿線の多くの人を巻き込み、活動の幅を広げながら展開されてきました。
トッ撮り×トリキッズ~シャボン玉とカメラのワークショップ~
水本さんからは、こうした写真の楽しさと地域の魅力を同時に人々へ伝えるプログラムを、鳥取県立美術館でも展開していきたいと考えられていました。その実験的な試みとして、2021年9月23日(木・祝)に『トッ撮り×トリキッズ~シャボン玉とカメラのワークショップ~』が、八頭町の隼Lab.を会場として行われました。
『トッ撮り×トリキッズ~シャボン玉とカメラのワークショップ~〉』のパネル
水本さんによると、今回のイベントでは3つの工夫をされたそうです。一つ目は「親子」を対象にしたことです。これまでは気兼ねなく子どもに高価なカメラを使ってもらうため、あえて子どもだけを対象にしてきたと水本さんは言います。しかし今回はコロナ禍で親子共に家での時間が増えたこともあり、親子が一緒に同じものに熱中する場をつくりたいとの思いから、親子フォトキャラバンという形態をとりました。結果的に、子どもよりも親が熱中するような光景も見られ、これまでにないワークショップになったといいます。二つ目が、県立美術館の建設予定地を想定し、広場と建物がシームレスにつながる空間を会場に選んだことです。県立美術館は大御堂廃寺跡の広がりを前に整備され、両者をつなぐプログラムを計画しています。トッ撮り×トリキッズでは、同じく建物と広場が一体化した空間のある隼Lab.を会場とされたそうです。三つ目が、県内でクリエイティブな活動に関わる人々とのつながりをイベントに生かした点です。会場では、八頭町を拠点に、大人と子どもの美術アトリエ「ツクリエ」の代表を務める大久保つくしさんによる、因州和紙にシャボン玉で模様をつけるワークショップも同時開催されました。また、イベントのパネルなどは『小鳥の家族』などで繋がりのあるグラフィックデザイナーの小谷真之介さんが作成しています。
地場産業×アートで新しい価値を創出
地元、鳥取県で活動を始める前から、水本さんは写真印刷紙としての和紙の可能性に注目されてきたといいます。他の紙では出せない質感を表現できるため、独特な作品が制作できることから、写真家として興味を持ったそうです。そんなとき、鳥取大学の地域連携講座で講師を務めた際から因州和紙に写真を印刷することを始めた水本さん。
鳥取県産業技術センターが印刷に適した因州和紙の開発に取り組んだ際、その普及に努めるなど、地場産業と写真のコラボレーションによる地域文化の発信を行われています。
水本さんは「20年前に40あった因州和紙の工房は、今では20を割り込みました。写真表現に和紙を取り入れている写真家として、危機感を自分事で感じたことが原動力」と語ります。
「写真の展示一つとっても、高度で繊細な印刷を可能とする技術者や写真を印刷するに適した因州和紙をつくる職人さんの技術がある」として、県立美術館には「そのような人たちが関わっていく機会をつくることで文化と地域産業のどちらも育むようなしくみ」を期待していると述べられました。
『シャボン玉とカメラのワークショップ』より、シャボン玉で模様をつけた因州和紙のパネル。
アートのすそ野を広げるには?
県とSPCからは、「毎⽇来ても楽しい、何かと出会える美術館」を目指し「年間1,000以上の多彩なプログラムを実施」するとした方針をご説明し、一緒に美術館で何ができるかを考えていきたいとお伝えしました。それに対し、水本さんからは鳥取県を東西に貫く国道9号線を舞台にした「鳥取R9フォトキャラバン」の開催、倉吉市の古民家で写真と和紙を組み合わせたAIRの実施、鳥取県産材を使用したフォトフレームの製作と展示など様々なアイデアを頂き、「今後も水本さんとつながりのある県内アーティストやクリエイターを交えて話し合う機会をつくりましょう」と盛り上がりました。
これからも対話を重ねながら、県民のみなさんの想いやアイデアを実現していけるよう準備を進めていきたいと思います。
鳥取R29フォトキャラバン https://road29photocaravan.tottori.jp/
水本俊也ホームページ https://waterbook.net/
小鳥の家族 https://kotorinokazoku.tottori.jp/
隼Lab. https://hayabusa-lab.com/
=== 『県民みんなと対話ログ』シリーズについて
鳥取県立美術館整備運営事業は「県民みんなでつくる」機会を大切にしており、開館準備期間中から県民の皆さんと対話の場をつくって進めています。
そんな皆さんとの対話の記録を「県民みんなとの対話ログ」シリーズとしてご紹介!
県内各地での対話の様子をアーカイブしていき、参加できた人もできなかった人も共有できるホワイトボードのようなメモとして活用してもらえたら嬉しいです。
※書き手は関係者の場合が多いですが、いち参加者・いち県民の目線でお伝えしていきます。
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