【開催報告】鳥取県立美術館がめざす、コレクション・ラーニング・地域連携のこれから‐その2‐
こんにちは!鳥取県立美術館広報担当です。
この記事を見つけてくれた方、ありがとうございます。
開催概要
3年後の2025年春開館を目指す、鳥取県立美術館。
3/27に実施した、未来を“つくる”美術館フォーラム『鳥取県立美術館がめざす、コレクション・ラーニング・地域連携のこれから』の開催の様子を3部作にてお届けします。
今回は「その2:スペシャルトーク編」です。(プレサイトから引用)
>>>「その1:鳥取県立美術館開館準備の取り組み紹介編」はこちら ↓↓↓
第二部 スペシャルトーク
第2部スペシャルトークでは4名のゲストを迎え、そのユニークな活動や、地域とつながりながら取り組むあり方など紹介いただきました。
滋賀県立美術館 保坂健二朗氏
滋賀県立美術館・保坂ディレクターは、『「リビングルームのような美術館」を実現するためのあれこれ』と題し、“美術館に行く”ことをより身近に捉えてもらえるような工夫あふれる取り組みを、具体的な資料を交え豊富なスライドでご紹介いただきました。
「美術館と地域が関わりあう“ラボ”は、地域から美術館と連携してやりたいことを提案されたときに最大限対応できる場として設けたもの。美術館としては場所を貸出し、共催事業として様々な取り組みが実施されている」とのことで、普段は会議室や休憩スペースとして活用される“余白の場”をつくることで、数年先まで予定が決まっている美術館では難しかった、“いま何か一緒にやりたい”という地域の声に、対応できるしくみとされていました。
他にも、多様なデザインの椅子を用意して多くの方が憩える居場所をつくる、公園の中の公立美術館として公共性を重視した運用のしくみなど、鳥取県立美術館にも通じるものがあるのではと感じました。
また、「入館料を払ってコレクションを観ること、つまり楽しいかどうかわからないモノへの投資はハードルが高い。格差社会や子どもの貧困が問題となる昨今、保護者が入館料を払って美術館に来ること自体、ハードルが高いのではないか」と、課題意識を持たれ、解決策として、公共美術館ができる持続可能なしくみとして考えられたことが“寄附金制度を活用した地元企業によるフリー観覧デーの設定”でした。その取り組みは、スポンサー企業の研修の場として対話型鑑賞など美術館を活用してもらうことや、単に広告を掲載するより企業イメージのアップが期待されるなど、寄附側のメリットにもつながる印象的なものでした。
横浜美術館 蔵屋美香氏
横浜美術館・蔵屋館長からは「リニューアルに向けて横浜美術館は何をしているの?」と題し、大規模改修による長期休館のタイミングで、“変わるなら、いま!”ということで展開している、次なる運営期間に向けた取り組みを、充実したスライドでご紹介いただきました。
横浜美術館は、鳥取県立美術館から1.5kmほど離れた場所にある倉吉市役所の設計者と同じ丹下健三氏の建築で、市芸術文化振興財団が指定管理者として運営されています。「みる・つくる・まなぶ」を軸に、ラーニング部門に10数名の学芸員を配置して長年力を入れておられます。館長が11年ぶりに交代した今、「施設も中身も新しい姿を描くチャンス!」と、現事業を総点検し、時代のニーズに即した事業を考えることや、全職員が館全体の健全な経営に照らして事業を考えるクセを身につけるための取り組みは、とても印象的でした。
全職員参加のワールドカフェ(ワークショップ)を開催し、館の良い点・課題点を出し合ったり、収支のしくみ講座を実施したりして、立場に関係なくフラットに議論できる風土づくりをまず最初に始められたそうです。そこで、“美術館に来ている人はどんな人?来られない人は?”、“コレクションについて考えよう”とその特徴を深掘りしていく様子は、鳥取県立美術館でも大事だなと感じたところです。
また、「美術館の枠組みは、時に“地域/男女比/来館者の多様性”を見えなくするものとして働くことがある。美術館は、来館者がアートを通じて多様な人の生き方や文化に出会うための場となるべき。来館者が、人には様々な選択肢があり、自分だって色々な事が出来るんだな、と実感するような、“生きるための力を育む場”となることを目指したい。」との言葉は、とても考えさせられるものでした。
演出家・鳥取県教育委員 中島諒人氏
演出家で鳥取県教育委員でもある中島さんは、県民アンケートの結果を踏まえ、鳥取県立美術館が倉吉市に建設されることが決まった当時の県教育委員会教育委員長です。その頃はほんとにこの場所に人が来るのかと考えていたこと、公的投資に対する採算性・効果検証が求められている時代に、演劇と同様に必ずしも数字に表れないこともあるという難しさ、そして鳥取県立美術館に期待することなどをご紹介いただきました。
『美術館が主導する地域活性化とは何か。』と考えた時に、中島さんは「たくさん人が来るだけではないのではないか。芸術とは、その地域・時代・社会を背景に、個人のやむにやまれぬ気持ちを表現したもので、だからこそ地域や時代を超えて、多くの人の心を動かし、時に社会に警鐘を鳴らしたり、生まれようとしている流れを加速させていくような力をもってくるのではないか。人間は本来自由な生き物で、その人間の力は、時に素晴らしい成果を生み出すこともあり、時に何とも言えない閉塞や抑圧を生み出すこともある。その本来の人間の自由が失われた時に、感動の力で風穴を開ける力をアートは持っているのではないか。」と会場に投げかけられました。
また「美術館は美しいものを見る場所だと認識されているが、それだけではない。美しさとは何か感じ、考える場でもある。社会情勢が不安定な場面を見て、その風景をつくった人の心が美しくない等、美を考えることは、その人の生き方、人との関わり方、世界との関わり方を考えることと同じ。美術館が果たせる役割にはそういうこともある。それは社会をつくる役割として極めて重要なのではないか。」、「そのためには数も大事なので、しっかりと支援の輪を作っていかないといけない」と、県立美術館に関わる立場こその発言内容は、ひとりひとりが県立美術館の本質を考えるきっかけとなったのではないでしょうか。
@J 鈴木潤子氏
@J・鈴木ディレクターからは、「あらまほし 美術館のある暮らし」と題し、これまで取り組まれた森美術館や日本科学未来館の立ち上げに関わるブランディング・広報の工夫点、新潟県直江津市で取り組まれたアートプログラムなどを通じて、新しい美術館への期待をご紹介いただきました。
はじめに「電気、ガス、水道のように、美術館は地域の文化的な総合知としての社会基盤(インフラ)であり、突然現れるものではなく、元々あったものにきちんとした流れをつくるもの」ではないかという考えを示されました。
森美術館は私立の美術館のため、来場者数などシビアに数字が求められる中、オープニング展の来場者数において1日平均記録がその年の世界最高記録を更新するなど、これまで上野一強だった東京の文化拠点のイメージに「六本木にアートを見に行こう」「六本木は昼にも行こう」という新たなエリアイメージに更新することにつながりました。現在でも東京のアートシーンをけん引する美術館の一つです。
それには、駅から美術館までの動線上に、至るところにパブリックアートをコミッションによって多く配置する、上質なアートで低層階と美術館高層階をつなぐことや、国際化を強く意識して世界中が対象地域とすること、夜間も開館することでアクセサビリティを上げること、多様な専門スタッフの配置や、メディア発信の場としてヴェネチアビエンナーレでプレス発表をしたことなどが寄与しています。そういったグローバルな取り組みに関わった一方で、同時に都内のタクシー運転手さんに対して開館前にギャラリーツアーを実施するなど、多岐にわたる積極的な取り組みを丁寧に行ったというお話はとても印象的でした。
また、直江津市での「うみまちアート」の取り組み紹介では、その後この企画をどうするかを地域の方々が自主的に検討を始めた様子に触れられました。
「美術館は時代とともに変化し成長する存在であり、それぞれの地域で“私たちにはこんな美術館がある”“私は美術館のここが好き”という想いを、穏やかに語りあえる時代と社会が来るといいですね」と締めくくられ、鳥取県立美術館もどこかの館と比較するのではなく“私たちの美術館なんですよ”と誇りや愛着を持ってもらえるような存在になりたいなと強く願ってしまうお話でした。
~その3「トークセッション編」に続く~
◆◆ 関連情報 ◆◆
・本イベントの開催概要は、告知ページをご覧ください→こちら
・3/13開催カウントダウントークイベント1:『ココロオドル、鳥取県立美術館のある未来』開催報告→こちら
・教育普及の取り組みはこちら→ふれてまなぶ・であってまなぶ(教育普及事業)